『闇鍋のしめ』
●登場人物●
全員大学生くらい。
赤澤と青海は同期。黄本は後輩。
※青海と黄本はお泊りするくらい仲がいいので、性別変更する場合は一部台詞を変更を推奨。
赤澤(あかざわ):男性。闇鍋の『しめ』をやりたい。面倒くさいタイプの鍋奉行。(性別不問)
青海(おうみ):女性。闇鍋のしめから逃げたい。(性別不問)
黄本(きもと):女性。闇鍋のしめより明日のデートが気になる。(性別不問)
〇本編〇
闇鍋が終わったところから始まる
赤澤(あかざわ):「電気付けるぞー」
座ってコンロを消す赤澤
ワイワイと楽しそうに話す3人
赤澤(あかざわ):第一回闇鍋大会楽しかったなーw
青海(おうみ):なにそれw
黄本(きもと):第二回あるんですかw
赤澤(あかざわ):黄本、何入れた? 俺はミニトマトと稲荷寿司と奮発して国産の牛肉!
黄本(きもと):ミニトマト赤澤先輩が入れたんですか? 思ったよりはイケましたよ!
私は苺のショートケーキ入れました~♪
青海(おうみ):げぇー、生暖かい苺があると思ったら! ケーキ溶けちゃってんじゃんw
私はスルメとかお餅とかw
赤澤(あかざわ):餅は青海か! 安定してうまかったわ。
黄本(きもと):あと私、缶詰のパイナップルとクッキーも入れました~♪
青海(おうみ):甘い物ばっかじゃん! 私はあと何入れたっけな……あ、モッツァレラチーズだw
黄本(きもと):青海先輩のも溶けるやつじゃないですか~!
青海(おうみ):白菜とかネギとかまともなやつも入れたってば~!
はー、たまにはこういうのも楽しいねー!
黄本(きもと):そうですね! 面白かった~!
赤澤(あかざわ):で、締めどうする?
間
青海(おうみ):え…?
黄本(きもと):締め…?
赤澤(あかざわ):鍋なんだから締めもやるだろ?
青海(おうみ):え、あー……いや…
黄本(きもと):え…と…
赤澤(あかざわ):俺いつも雑炊派なんだけどさ、うどんとかの麺類も用意してあるし。
普通に進めようとする赤澤を慌てて止める青海と黄本
黄本(きもと):えっ? えっ!?
青海(おうみ):いやいやいやいや!
赤澤(あかざわ):え? 何、どした?
青海(おうみ):え、マジで? マジで言ってんの?
赤澤(あかざわ):いや、マジでって……じゃあこれどうすんだよ。
まさか捨てるなんて言わないよな?
黄本(きもと):えー……いやでも締めはちょっと……。
赤澤(あかざわ):鍋ってのは何鍋だろうと締めてこそだろ。それが鍋料理ってやつだろ。
青海(おうみ):うわー……こいつ鍋奉行だったんだ……。
黄本(きもと):しかもめんどくさいタイプ……。
青海(おうみ):あのさ、私ら闇鍋やったんだよね?
赤澤(あかざわ):おう。
黄本(きもと):じゃあやめましょうよ。
赤澤(あかざわ):誰の家だ?
青海(おうみ):え?
赤澤(あかざわ):ここは誰の家だって聞いてんだよ。
黄本(きもと):赤澤先輩ですけど……。
赤澤(あかざわ):鍋の用意をしたのは誰だ?
青海(おうみ):赤澤だけど……。
赤澤(あかざわ):で、誰が出汁取ったと思ってんだ?
青海(おうみ):でも闇鍋にしたじゃん……。
赤澤(あかざわ):こだわってめっちゃいい土鍋使ったんだぞ?
黄本(きもと):でも闇鍋にしたじゃないですか……。
赤澤(あかざわ):締めのない鍋料理なんぞあるか? あ?
青海(おうみ):でも……
黄本(きもと):闇鍋に……
赤澤(あかざわ):(遮って)食べ物を粗末にすることは絶対に許さない! いいな!?
青海(おうみ):えー……マジで……。
黄本(きもと):……ぁ…あー!思い出した!
青海(おうみ):黄本、どこ行くの?
逃げようとする黄本を捕まえる青海
黄本(きもと):うっ!?あ、明日は土曜日じゃないですかぁ、朝からデートなんで~エヘヘ。
そろそろ帰ろうかなぁって……。
赤澤(あかざわ):ほぉ…デート……。
青海(おうみ):こないだ別れたって言ってたじゃん……?
赤澤(あかざわ):黄本……?
黄本(きもと):ち、ちちち違いますよ!?
赤澤(あかざわ):怪しい……。
黄本(きもと):わ、私、彼氏となんて言ってませんけど!? 深読みし過ぎじゃないですか?
赤澤(あかざわ):まだ夜8時だぞ?帰るにしても早くないか?
黄本(きもと):だ、だって赤澤先輩のとこの最寄り駅って終電早いじゃないですか。
あんまり遅いと危ないし!
青海(おうみ):私の部屋来ればいいじゃん。泊めてあげるから
黄本(きもと):着替えとかメイク道具とか
青海(おうみ):最近バイト帰りだ飲み会だ何だって理由付けて泊まりに来まくってるから、
あんたの物はすべて揃ってるけど?
黄本(きもと):……お世話になりまーす。(観念して座る)
青海(おうみ):はぁ、まったく……。ちょっとトイレ行ってくる。
赤澤(あかざわ):どこに行く。
青海(おうみ):トイレだってば。
黄本(きもと):上着、いりませんよね?
青海(おうみ):いや、トイレ冷えるから。
赤澤(あかざわ):便座……温かいぞ。
青海(おうみ):ひ、冷え性……だから……。
赤澤(あかざわ):上着で隠してる鞄も置いてったらどうだ?
まさかそのまま玄関に行くわけじゃないよな?
青海(おうみ):え…そんなまさか……。
黄本(きもと):青海先輩。上着預かりますよ。
青海(おうみ):……うん
赤澤(あかざわ):トイレはもういいのか?
青海(おうみ):うん……(座る)
赤澤(あかざわ):よし。じゃあ締めの話に戻そう。
黄本(きもと):えっ。あぁ……忘れてた……。
青海(おうみ):ねぇ、それマジなの……? 闇鍋したんだよ私ら。
赤澤(あかざわ):あのなぁ、ここまでやっといて捨てろと?
お前ら2人が帰った後1人で?
分かってんのか!?
燃えるゴミの日は火曜日なんだよ!
今日は金曜日!!
3日間この部屋に置いとくことになるんだぞ!?
ワンルームだぞ!
分かってんのか!!!
黄本(きもと):でもこれ食べて週末お腹壊せって言うんですか!?
さっきはちょっと嘘つきましたけど、明日はお昼から本当にデートなんですよ!!
土気色(つちけいろ)した顔で頻繁にトイレ行くって最悪じゃないですか!
青海(おうみ):そんななってまでデート行きたいの? アンタどんだけ狙ってんのよ!!
黄本(きもと):無理だろうなって思ってたカッコいい先輩からお誘いあったら多少の無理はしますよ!
青海(おうみ):あのねぇ! 今までどんだけ男関連の愚痴聞いたと思ってんの!
ちょっとカッコいいだけですぐ好きになり過ぎでしょ!!
黄本(きもと):デートくらい誰だってしますよ! 今回は絶対大丈夫ですから!
青海先輩に相談することはもうないですー!
青海(おうみ):うそつけ!てか普通1人で出て行こうとする!?
こう言う時こそ相談しなさいよ!
黄本(きもと):だってそんな暇ないじゃないですか!
赤澤(あかざわ):もうやめろ!お前ら何の話してんだよ!!
今大事なのは!
3人同時に
赤澤(あかざわ):鍋の締めをどうするかだろ!
黄本(きもと):デートのことですよ!
青海(おうみ):ここからどう逃げるかよ!
間
赤澤(あかざわ):……ん? 青海、今なんて言った?(純粋に疑問)
青海(おうみ):……別に(まっすぐな目でしらばっくれる)
間
赤澤(あかざわ):はぁ……もういいだろ。準備するぞ。
黄本(きもと):(遮る)あっ、そうだ! 生ゴミ処理機を買うのはどうですか?
青海(おうみ):生ゴミ処理機?
黄本(きもと):こないだテレビで見たんですけど、
生ゴミをエコな方法で処理してくれる便利なやつがあるんですよー!
乾燥させて生ゴミ特有の臭いまで抑えてくれるんですって!
すごくないですか?
生ゴミって気をつけてても臭っちゃうことあるじゃないですか。
さらにですよ!
生ゴミの量を少なくしてくれるんですよ!
これだったらお茶碗一杯分くらいになりますよー!
自信満々にプレゼンをする黄本
青海(おうみ):(スマホで調べる)えと、生ゴミ処理機っと……あった。
安くてもだいたい2万円台……届くのは火曜日……。
赤澤(あかざわ):本末転倒じゃねーか!!!!
……あと次生ゴミって言ったらコロスぞ。
黄本(きもと):(少しビクっとなる)ぁ、はい…すみません。
青海(おうみ):はぁ…分かった……。じゃあカレーにしよう
黄本(きもと):カレー?
青海(おうみ):そう。カレーのルーをぶち込む。それなら食べられるものになるから
黄本(きもと):そっか……カレーなら……!
赤澤先輩、カレーのルーあります? ないなら買ってきますけど
赤澤(あかざわ):駄目だ。
青海(おうみ):え?
赤澤(あかざわ):カレーは駄目だ。
黄本(きもと):え、カレー苦手でしたっけ?
赤澤(あかざわ):カレーは……鍋に匂いがつくから勘弁してほしい……。
間
青海と黄本同時に
青海(おうみ):はぁー!?
黄本(きもと):はぁー!?
青海(おうみ):あんたが食べ物を粗末にするなって言うからこっちだって色々考えてんでしょ!
鍋くらい何よ!!
赤澤(あかざわ):こないだ買ったばかりのめちゃくちゃいいやつなんだって!
今日この1回しか使ってないんだぞ!?
黄本(きもと):じゃあもう捨てましょうよ!そしたら一番丸く収まりますって!
赤澤(あかざわ):それは絶対に嫌だ! 鍋の締めは俺のポリシーなんだ!
青海(おうみ):じゃあ別の鍋に入れ替えてカレーにすればいいじゃん!
赤澤(あかざわ):この土鍋に出汁染みてるのにそんな勿体ないことできるか!
青海(おうみ):じゃあこれにカレールー入れるしかないでしょ!
赤澤(あかざわ):それは嫌だ!
黄本(きもと):何なんですかそのこだわりは!
息切れする3人。膠着状態。
赤澤(あかざわ):(息を整えて)……食べられるものにすればいいんだろ?
黄本(きもと):またそんなこと言って……カレー以外に方法があるんですか?
赤澤(あかざわ):持ってきた材料ってまだ余ってるやつあるか?
青海(おうみ):えっと、モッツアレラチーズと白菜が半分。
黄本(きもと):私は缶詰のパイナップルが少し。
赤澤(あかざわ):よし…俺の家にある調味料とそれらを使ってなんとかしよう。
まずチーズは絶対使える。リゾットにすればいけそうじゃないか?
黄本(きもと):雑炊をチーズリゾットっぽくするってことですか?
赤澤(あかざわ):「そうそれだ! 俺のミニトマトもまだ余ってるしそれっぽくなるんじゃないか?
青海(おうみ):トマトのチーズリゾット……なるほど。
黄本(きもと):調味料は何があります? 私けっこう甘い物入れちゃったから分散させないと……。
赤澤(あかざわ):自炊するから一通りは揃ってる。まずは塩コショウだな。醤油も少し入れとくか。
黄本(きもと):酸味もほしいですね。パイナップル足しますか!
私、酢豚にパイナップル有り派なんで!
赤澤(あかざわ):最近見ないけど、実は子供の頃好きだったんだよな。
青海(おうみ):私無し派だけどこの際いいわ!
赤澤(あかざわ):なんか美味そうじゃねーか?よしこの調子で仕上げよう!
調味料・具材をどんどん足していく。
しばらくして…闇鍋のしめが完成(?)
疲れ切ってフラフラの3人。
赤澤(あかざわ):やっと、やっと完成した……!(息を切らしながら)
黄本(きもと):よかった……これでやっと終わりますね……。(息を切らしながら)
青海(おうみ):ねぇ……なにこれ…?(息を切らしながら)
間(鍋を見つめる3人)
赤澤(あかざわ):えー……。第二回、闇鍋大会を開始します……。
間
覚悟を決めて(3人同時に)
赤澤(あかざわ):いただきます。
青海(おうみ):いただきます。
黄本(きもと):いただきます。
― 終 ―