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『なんでもするとは言ってない!!』(声劇版)

●登場人物●

徳永(とくなが)

:女性。(性別変更可)

 だらしない性格で「なんでもするから」が口癖。

 明るくポジティブだが反省するということを知らない駄目人間。 叫び台詞多め。 

 


緒方(おがた)

:男性。(性別変更可)

 徳永の上司。

 お堅い性格で、怠け癖のある徳永にはいつもピリピリしている。

 自分にも他人にも厳しい。 声を張る台詞多め。 

 


白龍大神(はくりゅうおおかみ)

:(性別不問)

 おおらかで常に余裕の笑みを浮かべている人助けの神様。

 とある理由から神様代理として人間をスカウトしている。 

狛犬(こまいぬ)

:(性別不問)

 徳永と緒方のサポート係。

【徳】の増減や嘘を見抜いたりできる。

 モチモチフワフワした不思議な生き物。

 

徳永:

緒方:

白龍大神:

狛犬:

__________

【本編】

 とある神社。真剣な表情で手を合わせて願い事をする徳永。

徳永:「神様お願いします…。なんでもします。なんでもしますから!
    どうか私の大事なものを返してください!!」

徳永:「……馬鹿みたい。帰ろう」

 帰ろうとする徳永。少しの静寂からの神々しい光が差してくる

徳永:「うわ何!?眩しっ!!」

緒方:「その願い、叶えてしんぜよう」

徳永:「えっ」

緒方:「ん?」

 間

徳永:「緒方課長!?」

緒方:「徳永!?」

 

徳永:「何やってんですか!」(同時)

 

緒方:「何やってるんだ!」(同時)

徳永:「いやいや、こっちの台詞ですって! 
    え~嘘~!課長、こんな趣味があったんですか?うわ意外~!」

   (面白がりながら)

緒方:「趣味ではない!

    お告げがあったから張り切って出てきたのに何なんだ!
    徳永、お賽銭も投げずに願い事とはいい度胸をしているな」

徳永:「はぁ!?別に課長にお願いしてませんよ! 
    あと最近支払いはポイPAYばっかりで小銭持ち合わせてないんです!」

 

緒方:「知るか!ここの神は僕だ」

 

徳永:「はいはい、仕事のし過ぎで疲れてるんですよね? 
    神様ごっこしてたことは誰にも言いませんから大丈夫ですよ。
    そんなわけなんで仕事で失敗しても大目に見てくださいねそれでは!」

 

緒方:「待て、どこへ行く。願い事を聞いてやると言っているんだぞ。
    あとさらっと脅迫するな仕事は仕事だしっかりやれ」

 

徳永:「いやもういいですって。課長に何ができるんですか。
    返ってこないものはもう諦めるしかないんですよ」

 

緒方:「さっきの願い事が本当に叶うとしたらどうする?」

 

徳永:「はぁ…?」

 

緒方:「お前、参拝に来たくせにちゃんと信じてないな?

    説明してやるからこっちに来い」

 

徳永:「えぇ…この人本当に神様のつもりなの…?

    こわ…下手に逆らわない方がいいかもしれない」

 


 幣殿の中

徳永:「あの~ここ入っていい場所なんですか?怒られそうな気がするんですけど」

 

緒方:「静かにしろ。ここは幣殿(へいでん)というお供え物を置く場所だ。
    えーと、今日のお供えは…よし。白龍大神様、連れて参りました」

白龍大神:「まいどーおおきにー!おぉ、来た来た!な、言うた通りになったやろ?」

 

緒方:「はい、お告げ通りに。白龍大神様は現在関西にいらっしゃるのですか?」

 

白龍大神:「せやねん!いやーやっぱ本場のたこ焼きはちゃうな!
      外がカリっとしてて中トロトロやねん!

      お供えもんは当分これでもええかもしれへんわ。
      あ、でもお好み焼きも捨てがたいなぁ」

緒方:「かしこまりました。次回からたこ焼きかお好み焼きも視野に入れておきます」

白龍大神:「ええねんええねん!ここのはデザートにしとるから。
      まぁたまには洋菓子も食べたいねんけどな~」

 

徳永:「えっ?えっ?画面通話…いや画面どこ??
    う、浮かんでるし大きいし光ってるし関西弁だけど変な関西弁だし!
    ちょっと待って、ガチの神様ってことですか?なんですかこれ!?」

 

緒方:「まず頭を下げて挨拶をしろ。本物に決まっているだろう。
    この神社の神、白龍大神様だ」

 

徳永:「こ、こんにちは。

    えとハクリューオオカミ様…あの本物なんですよね?
    浮いてますもんね…?関西の神様ってことですか?」

 

白龍大神:「はいこんにちはー!
      さて、この子が来たってことは神様代理の件やな」

 

緒方:「あの…白龍大神様、そろそろ普通に話していただいてもよろしいでしょうか?
    徳永が困惑しておりますので…」

白龍大神:「え~折角関西におるからサービスしたってんのに…。
     (言葉遣いを改めて)はぁ、しょうがないなぁ」

緒方:「白龍大神様…こいつが、徳永が本当に次の代理で間違いないのでしょうか?
    会社での仕事ぶりを見ていますが、誰よりも怠けることしか考えていないやつですよ!?」

 

白龍大神:「そうだよ。私のお告げが外れたことがあったか?」

 

緒方:「いえ…ですが代理にするにはあまりにも問題が」

 

白龍大神:「(遮る)緒方」

 

緒方:「っ!」

 

白龍大神:「分かるね?」

 

緒方:「…はい」

 

徳永:「あの~、神様の代理ってどういうことですか? 
    課長、さっき自分が神様やってるみたいなこと言ってませんでした?

    もしかして本当の本当に…?」

緒方:「ようやく信じたようだな。

    白龍大神様は日本各地に祀られているため大変お忙しい。
    そのため各地で見込まれた者を神様代理として置き、ご自身と繋げておられるのだ。
    つまり神様代理とは神社の管理やその土地に住まう者達の(ケアなど神様に代わって)」

徳永:「(台詞の最後に被り)え、いやあの、つまりどういう…?」

 

白龍大神:「早い話、フランチャイズってことだ。
      適した人間をスカウトして力の一部を分け与え、神社本来の役割を担ってもらってるってわけ」

 

徳永:「なるほど!分かりやすい!」

 

白龍大神:「緒方は相変わらず固いんだよなぁ。
      ふむ、ちょっと不安だしサポート役を遣わせるか。
      えーっと…よし、あれにしよう。おいで」

 

狛犬:「白龍大神サマ。お呼びでしょうか」

 

徳永「可愛い~!なんですかこのモチモチした犬みたいな生き物!」

 

白龍大神「そこの狛犬を1体だけ顕現させた。

     これからお前たちの助けになってくれると思うよ」

 

緒方:「お心遣いありがとうございます」

 

狛犬:「緒方サマ、徳永サマ、どうぞよろしくお願い致します」

 

徳永:「ふわあぁぁぁ喋った!神パワーすご!

    モチモチフワフワで可愛い!名前はあるの?」

狛犬:「名前は狛犬でございます」

徳永:「え~じゃあ私がつけちゃお!じゃあ…安直だけど狛犬のコマちゃんね! 
    犬大好きなんですよね~!はぁ~持って帰りたい」

緒方:「狛犬は犬ではない」

 

徳永:「え?いやいや狛犬なんだから犬じゃないですか」

 

緒方:「確かに字では犬となっているが、僕達が知っている犬ではない。
    諸説あるが、起源はペルシャ・古代インドのライオンとされており、

    つまり獅子であるわけだが」

徳永:「あ、難しい話が始まった!

    分りました犬みたいだけど犬ではないんですねよく分かりました!」

 

狛犬:「この度お二人のサポートをさせていただく狛犬でございます。

    よろしくお願い致します。お名前はご自由にどうぞ」

徳永:「コマちゃんよろしく!可愛い!」

 

白龍大神:「で、徳永の願い事と引継ぎの説明をしなければいけないのだが」

 

徳永:「(被る)そうそう!願い事って本当に叶えてもらえるんですか? 
    すっごく大事なものだから返してもらえるならすぐにでも返してほしいんですけど」

緒方:「そういえばいつになく真剣だったな。

    神頼みするくらいだしよっぽど大事な物なんだろう。
    形見とか両親からの贈り物か?」

 

徳永:「はい、私の大事な……ポイントです…」

 

緒方:「…ポイント?」

 

徳永:「私、ちょっとずつ貯めたポイントで新型家電をドーンと買うのが好きなんですよ…」

 

白龍大神:「新型家電?」

 

徳永:「最新のドライヤーをポイントで買ってやろうと思って…。
    ポイント集めのことしか頭になかったから
    自分の仕事はみんなに任せて毎日定時で帰ってました」

 

緒方:「毎日…」

 

徳永:「来店ポイントってやつがあるんですよ…。
    いつも通り仕事してたら閉店時間になってしまうんで急がなきゃいけなくって」

 

狛犬:「来店ポイント」

 

徳永:「もちろん買い物もしてましたよ!来店ポイントだけでは気が遠くなるので。
    最近の家電量販店は日用品も豊富ですからね。もはや実家みたいなものですよ」

 

白龍大神:「実家…」

 

徳永:「そして今日。その努力の証である3万ポイントを使うために私はお店に行きました。
    毎日通ってたから店員さんとは顔馴染みですしスムーズなものでしたよ。
    あとはドライヤーを買うだけ!それなのに…」

 

白龍大神:「……」

 

緒方:「……」

 

狛犬:「……」


徳永:「期限切れで1000ポイントなくなってたんです!私の努力の結晶が!! 
    もうショックで頭が真っ白になってしまって…。
    普段は発泡酒だけどむしゃくしゃしてビールを買って飲み歩いてやりました。
    そして気が付いたらここまで来てたってわけです」

 

 間

緒方:「徳永…お前…」

徳永:「でもポイント返ってくるんですよね!それなら神様でもなんでもやりますよ! 
    さ、ちゃちゃっとやっちゃいましょう!」

 

緒方:「馬鹿者ぉ!!なんだその願い事は!

    どれほど周りに迷惑をかけているのか分かっているのか!
    どうりで会社でお前に関するクレームが増えているわけだ!」

徳永:「そんな!私だって落ち込んでるんですからまずは慰めてくださいよ!」

 

緒方:「この期に及んで…!」

 

白龍大神:「まあまあ緒方、落ち着け」

 

緒方:「こいつに神様代理は不可能です!いくら白龍大神様のお告げでも絶対に!」

 

白龍大神:「うん、そのことなんだけどね…。狛犬、見せてあげなさい」

 

狛犬:「かしこまりました~!頭上失礼致しますね。よいしょ」

 

徳永:「えっなになに?フワモチで頭の上が気持ちいい」

 

狛犬:「どうぞ、鏡でございます」

 

徳永:「あ、どうも。…ん?頭の上になんかある?3…いや鏡で逆だから113?なにこれ?」

 

白龍大神:「緒方にも見えるはずだよ」

 

緒方:「これはもしや…」

 

白龍大神:「ふふ、ポイントが大好きな君へのサービスみたいなもんだよ。それは徳の数だ」

 

徳永:「徳って…?えっと、イイことしたらイイこと起こるみたいなそんなんでしたっけ?」

 

白龍大神:「まぁそんな感じ」

 

狛犬:「今まで生きた中で積まれた徳を数値化したものが、今見えている数字でございます」

 

徳永:「へ~!え、これって多いんですか?少ないんですか?」

 

緒方:「非常に少ない」

 

徳永:「ん?…うわっ! いち、じゅう、ひゃく…お、緒方課長、10万近くあるじゃないですか!」

 

狛犬:「一般の平均は1万ポイントですので、緒方様は非常に徳が高いお方と言えます。

    さすが神様代理です」

 

徳永:「はーさすが…って、え!?平均1万ポイント?いやいや私少なすぎない!?」

 

緒方:「そう、お前は少なすぎる。つまり、神様代理にはなれない」

 

徳永:「は!?いやどういうことですか!ちょっと待って私の願い事はどうなるんですか!?」

 

緒方:「なるほど…そういうことですか。先程は声を荒げて申し訳ありませんでした。
    白龍大神様のお告げの意味が分かりました」

白龍大神:「さすが、察しがいいねぇ。狛犬もそのままサポートで置いておくからよろしく頼むよ」

 

徳永:「ちょっと私にも分かるように説明してくださいよ!ポイントはどうなるんですか! 
    私の新型ドライヤーは買えるんですか!?」

 

緒方:「やかましい!ポイントのことしか頭にないのか! 
    今は頭上のポイントが一番の課題だ!願い事は一旦忘れろ」

 

白龍大神:「いいかい徳永。

      神様代理を引き継ぐためには徳が最低1万ポイントはないと務まらない。
      そうでなくてもお前のポイントは100を切りそうになっている。

      とても危険な状態なんだよ」

徳永:「このポイントなくなったら何かあるんですか?」

狛犬:「人はあらゆることで成功と失敗を繰り返し、日常で徳を積むことによって人生のバランスを取っています。
    徳のポイントがなくなるということはその方の人生は終わりを迎えるということでございます」

 

徳永:「じ、人生が終わ…る…」

 

緒方:「今からならまだ間に合う。願い事、そして神様代理になるため人生を見直していく時だ。
    僕のためでもあるしな」

 

白龍大神:「そうそう。緒方にとってこれ以上ない相手だろう?

      ユーモアってやつをみっちり教えてもらうといい」

 

徳永:「ユーモア?」

 

緒方:「僕はここでユーモアが欲しいと願ったんだ。

    叶えてもらう代わりにここで神様代理をしている。
    やっとお告げの意味が分かりました。徳永と切磋琢磨せよということだったのですね」

徳永:「ユーモアが欲しいって…。

    ぷっ…あははははは!ユーモアって!アハハハハ!
    たしかに緒方課長には必要かもしれませんけど、願い事がユーモアって!

    アハハハハハハ!!」

 

狛犬:「徳が3ポイント減りました。残り110ポイントです」

 

徳永:「え!?なんで!!徳ってこんな簡単に減るの!?」

 

狛犬:「はい。人を嘲笑うのはよくない行いだからです」

 

徳永:「私の大事なポイントが…。くっ、気を付けます」

 

緒方:「早速教えてもらいたいのだが、

    さっきお前が笑ったのは僕の言葉のどこかにユーモアがあったからか?」

徳永:「いや、あれはユーモアっていうか…

    え?笑われたことに気づいてない? 
    これもある意味徳が高いからってことなの…?」

 

白龍大神:「まぁある意味な…。そういうわけで二人とも、修行頑張るんだよ? 
      ちゃーんと見てるからね?

      それじゃ次のお供えは洋菓子よろしくね~!」(消える)

緒方:「承知いたしました。お口に合いそうな洋菓子店をいくつかピックアップしておくか」

 

徳永:「消えた…。えーっと?

    つまり私はポイントを取り戻すのと神様代理になるために徳を積むってことですか?」

 

狛犬:「その通りでございます」

 

緒方:「早速明日からにしよう。朝5時にここに集合だ」

 

徳永:「朝5時!?そんな朝早くなにするんですか!」

 

緒方:「早起きは三文の徳と言うだろう。何より朝早く起きて体を動かすのは気持ちいいものだぞ」

 

徳永:「え~…分かりました…」

 

 次の日。境内にて。

緒方:「遅い!1時間も遅刻だぞ!初日から何を考えている!」

 

徳永:「まだ6時ですし十分早いじゃないですか~…なんでもするから許してくださいよぉ」

 

緒方:「ん?顔色があまりよくないようだが、まさか酒を飲んで夜更かしをしたんじゃないだろうな」

 

徳永:「そ、そんなわけないじゃないッスかー!」

 

狛犬:「あ、徳が1ポイント減りましたね」

 

徳永:「うえぇ!?な、なんで?」

 

狛犬:「徳永サマ、先ほど自身のやましいことを隠すために嘘をつきましたね?」

 

緒方:「徳永…」

 

徳永:「う、嘘なんてついてないですよ!嘘って何が嘘なんですかー!」

 

狛犬:「また嘘をつきました。徳が減っています」

 

徳永:「えええ!コマちゃんこれも!?これもダメなの!?なんでよぉ~私のポイントがぁ~!」

 

緒方:「まだ自覚がないのか、お前は神様代理になるために修行をしているんだぞ!

    嘘をつくなんて以ての外だ!」

 

徳永:「ごめんなさい…グス、もうしませんなんでもします…」

 

狛犬:「また徳が減りました」

 

徳永:「いいいい今のもぉ?!」

 

緒方:「徳永…!」

 

徳永:「すみません!ポイントが返ってくるんだと思ったら嬉しくなって…!
    前祝いしようと思ってビールを追加で1缶飲んで寝ました…」

 

緒方:「始まってすらいないのに何を祝うことがあるんだ!」

 

徳永:「だって嬉しかったんですもん!頑張るのは明日からでいいやって思って…」

 

緒方:「あと、まさかとは思うがそれは寝間着ではないだろうな…?」

 

徳永:「あ、分かります?そうなんですよ、これくらいの恰好なら大丈夫かなーってアハハ」

 

緒方:「どこまで怠ければ気が済むんだ…!」

 

狛犬:「徳永サマ、生活習慣の見直しは徳を積むのに最適でございます。

    まずは早寝早起きから始めた方がいいかと」

 

徳永:「はーい…」

 

緒方:「はぁ…まったく。先が思いやられるな…。また徳が減っているんじゃないだろうな…
    ん?…230?昨日より増えている…?」

徳永:「え!やったー!なんかいいことしたんですか私!ラッキー!」

狛犬:「徳永サマの場合、あらゆる意味でポジティブな性格が

    プラスに働きやすいのではないかと思います」

 

緒方:「なるほど…それはユーモアにも関係がありそうなのか?」

 

狛犬:「恐らくは。ただし現在のような行いを続けていれば0になる日も近いです」

 

緒方:「やはりそうか…。

    早寝早起きの他にゴミ拾いや境内の掃除も追加した方がよさそうだな」

 

徳永:「そういえば課長の方はどうなんですか?ユーモアがどうのこうの言ってましたけど」

 

緒方:「あぁ、出勤までの間にゲームをしようと思って持ってきた」

 

徳永:「お! ゲームいいですねー!何ですか?

    持ってきたってことは最近流行りのボードゲームとか?」

 

緒方;「いや、トランプだ」

 

徳永:「はい?」

 

緒方:「友達と遊ぶ定番ゲームといえばこれではないかと思ってな。

    何がやりたい?ババ抜きか?七並べか?」

 

徳永:「ゲームってトランプですか! 一周回って新しいとかネタで言ってるとかではなく!?」

 

緒方:「実はオセロと迷ったんだ。やはり二人でトランプは厳しかったか・・・」

徳永:「いやそうではなくて。

    あのー…緒方課長って学生時代は友達とどんな風に遊んでました?」

緒方:「学生時代は遊んでいる暇はなかった。
    父にも『友人なんぞ作っても何の意味もない。

    遊ぶ暇があるなら勉強して将来に生かせ』と言われていた」

徳永:「こ、恋人とデートとか遊びに行ったりとか…」

 

緒方:「恋人は一度も作ったことがない」

 

徳永:「あ、すみません」

 

緒方:「なぜ謝る」

 

狛犬:「えっと…緒方サマ。

    とりあえず今日のところは一応早起きをしたということでクリアにいたしますか?」

緒方:「そうだな。では、明日はオセロを持ってくる。
    ちゃんと朝ご飯を食べて身支度をしてから出勤するように。解散」

 

徳永:「あ、はい。え、早起きしてオセロするの…?」

 

 1週間後の早朝

 

緒方:「今日はUNOを持ってきた」

徳永:「いやもういいですって!! 
    1週間早起きしてずっとトランプ、オセロ、将棋、チェスって!

    苦行じゃないですか!」

緒方:「だから今日はUNOを」

 

徳永:「同じですって!だって全っ然面白くないんですもん! 
    手加減してくんないから私ばっか負けるし!つまんない!!」

 

緒方:「つ、つまらない…か…。そうか…すまなかった…」

 

徳永:「え…そんな落ち込まなくても。ただ楽しくないと意味がないって思っただけで…」

 

狛犬:「緒方サマは取引相手の方にジョークが通じない・ユーモアがない・つまらないと言われ、
    ひどくショックを受けた後こちらの神社にいらっしゃったのです」

 

徳永:「そうだったんですか…」

 

緒方:「ユーモアを取り入れるためにはまず学ぶ姿勢が大事だと思うのだが…

    これは遊びではないんだし」

 

徳永:「いや遊びですよ!

    ユーモア手に入れたいんなら楽しまなくてどうするんですか」

 

狛犬:「徳永サマの言う通りですよ。

    まずはご自身が楽しんでいくことが願いを叶える第一歩となります」

緒方:「そうか…メモしておこう」

徳永:「メモしなくても…。そもそもユーモアって理屈じゃないって言うか…
    あんまり難しいことは考えずに目の前のことを一緒に楽しむことから始めてみましょうよ」

 

緒方:「為になった、次に生かしてみる」

徳永:「なんか課長に頼りにされるのって変な気分ですね。

    まぁ悪い気はしないですけど~!」

 

狛犬:「徳が1ポイント減りました。徳永サマ、人を見下してはいけませんよ」

 

徳永:「う…コマちゃんジャッジ厳しくない?」

 

緒方:「今のポイントは…340か。1週間で100くらいしか増えていないのは問題だな。

    早寝早起きはもう慣れたのか?」

徳永:「まぁしんどいけど起きられるようにはなってきましたよ。
    でも別にポイントがなくなるようなことしてないと思うんですけどねー?」

緒方:「会社での仕事ぶりを見ているとそうは思えないがな」

 

徳永:「一生懸命やってるんですけどねー…

    それに一人で頑張るより周りに頼ったほうが早く終わりますし!」

 

緒方:「お前は頼り過ぎなんだ!

   「なんでもするから」とお願いしまくっているそうじゃないか」

 

徳永:「だってそうしないと仕事終わらないんですもん!

    みんなで力を合わせるっていいことじゃないですか」

緒方:「いいことみたいに言うな!

    お前の尻拭いをさせられているだけじゃないか。その分だと私生活も怪しいな」

徳永:「いやいやそんなことまで口出しされるんですか?

    プライベートは関係ないじゃないですかー!」

緒方:「狛犬、徳永の私生活に関するデータはあるか?」

 

狛犬:「徳に関係あることでしたらお教えすることは可能です。
    たとえば先週の土曜日、ご友人との約束を当日にキャンセルされてますね」

 

徳永:「あー、朝起きたら行く気分じゃなくなっててドタキャンしましたねー」

 

緒方:「気分だと…!?待ち合わせ場所で待ってる人の気持ちは考えないのか」

 

徳永:「えー、だって二日酔いだし寝不足だったんですよ? 
    しょうがなくないですか?いや悪いとは思ってるんですよ?」

 

緒方:「それが悪いと思っているやつの態度か!」

 

狛犬:「他にも借りた物を何度催促されても年単位で返さなかったり、
    人が話して時に何度も割って入り自分の話をして譲らなかったり、
    人が食べてるものを高確率で一口ちょうだいとねだり一口以上食べたり。
    こういった小さな出来事が山のようにございます」

 

徳永:「犯罪ってわけじゃないんですから、それくらい別によくないですか?」

 

緒方:「よく今まで何事もなく生きてこられたな…」

 

徳永:「可愛げがあるってやつですかね!」

 

緒方:「やかましい!このままでは一生かかってもポイントが貯まらないな…」

 

狛犬:「一度白龍大神サマにご相談されてみてはいかがでしょう?」

 


 幣殿にて

緒方:「白龍大神様、今回のお供えはリクエストされていた洋菓子でございます」

 光と共に現れる白龍大神

白龍大神:「おー!シュークリームか!緒方分かってるねー!
      そうそうカスタードと生クリームは半々がいいんだよ」

 

緒方:「お喜びいただけて何よりです」

 

白龍大神:「で、ポイント集めは順調…ではないようだねぇ」

 

徳永:「いや~なんかそうみたいですね~」

 

狛犬:「どうも徳永サマには徳を積む習慣というものがないように思えます。
    早寝早起きをはじめ私生活の改善を図ってはみたのですが、

    はっきり申し上げて効果は薄いです」

緒方:「僕のユーモアの勉強は捗ってはいるのですが、ものにできた実感はあまりないですしね」

白龍大神:「つまり、二人ともあまり進歩はないわけか」

 

徳永:「どうすればいいですか?

    こういうのって神様パワーってちゃちゃっとどうにかならないんですか?」

緒方:「お、お前!神様代理になるために徳を積もうとしているのになんてことを!」

白龍大神:「そりゃ私の力でパっとどうにかすることは可能だがなぁ。

      果たしてそれでお前達は満たされるかな?」

緒方:「いえ…ただ怠惰になるだけでしょうね…」

徳永:「えー!?楽できるならそれに越したことはないですって!」

狛犬:「徳が1ポイント減りました。

    徳永サマ、きちんとお話を理解して返事をいたしましょうね」

徳永:「ちょ、今のも駄目なのぉー!?

   (ボソッと)面倒くさいなぁ…」

緒方:「とにかく、今一番改善しなければいけないのは徳永の内面ではないかと思うのですが、
    さすがにこれ以上何をどうすればいいのかさっぱりでして…」

白龍大神:「ふむ。つまり徳永に徳を積むことの大切さを心から」(分かってもらいたいんだね?)

徳永:「(遮る)もーやだ!!」

 

緒方:「徳永…?」

 

徳永:「毎朝早起きして掃除してつまんないゲームに付き合って! 
    私だってそれなりに頑張ってるのになんでそこまで言われなくちゃいけないんですか!!」

 

緒方:「お、おい、今はお前のための話をだな、というかまだつまらないと感じていたのか…」

 

徳永:「課長は自分のユーモアのことしか考えてないでしょ!
    私だって頑張ってるのに!こんなめっちゃ否定されたらやる気なくなりますよ!
    もういい!もうやめる!帰る!!」

 

緒方:「おい待て!徳永!」


 幣殿から出て帰ろうとするも、鳥居から外に出られない

 

徳永:「えっ?え?なんで?ここから進めない…いつもは普通に出られるのに…」

緒方:「(追いつく)はぁはぁ…お前、自分がどういう立場か分かっていないのか」

徳永:「課長!これどういうことですか!課長が何かしたんですか!?」

狛犬:「徳永サマ、お戻りくださいませ。修行はまだ終わってませんよ」

 

徳永:「コマちゃん…いや、私はもう…」

 

狛犬:「徳永サマ、お戻りくださいませ。修行はまだ終わってませんよ」

 

徳永:「コ、コマちゃん…?」

 

白龍大神:「どこに行くんだい?」

 

徳永:「神様!どういうことなんですか?なんで出られないんですか!」

 

白龍大神:「なんでって、約束を破ろうとしたからじゃないか」

 

徳永:「約束…?」

 

白龍大神:「そうさ、約束しただろう?

      お前は願い事をして私はそれを条件付きで叶えると約束した。 
      ちゃんと納得しただろう?」

徳永:「いや、でも…もういいですよ。

    徳を積むとか神様代理とか、私には向いてないんで辞めます」

 

緒方:「徳永、それはできない」

 

徳永:「え、なんで…?」

 

緒方:「神との約束を破るなんてことできるわけがないだろう」

 

徳永:「いや、約束っていってもあんなのただの口約束じゃないですか!そんなの」

 

白龍大神:「口約束でも約束は約束だからねぇ。

      きちんと守れないなら…帰すことはできないなぁ。
      だって言ったもんね?『なんでもするから』って。
      願い事を叶えるってことは早い話、人生を変えるわけだからね。

      そんな簡単にはいかないよ?」

徳永:「そんな大げさな」

 

緒方:「いいか、よく考えろ。相手は人間じゃないんだ。神様なんだぞ? 
    お前がいつも人にやっていることが通用するわけがないだろう。

    しかもお互い合意を得てのことだ」

徳永:「いやいや!私、なんでもするとは言いましたけど!

    なんでもするとは言ってません!!」

緒方:「お前は何を言っているんだ」

徳永:「だって…!こんな怖い思いするなんて聞いてませんよ!
    うわああん!帰りたいよー!!

    なんでもするからおうちに帰してぇー!うわあああん!」

 

緒方:「きちんと理解していなかったお前が悪い」

 

徳永:「うぅ…ぐす…うう…平日の昼間からビール飲みたい…」

 

緒方:「本当にお前は何を言っているんだ」

 

狛犬:「まず約束を破ろうとしたことでまた徳が減っておりますので、

    早急にお戻りいただければと思いますが…」

 


 再び幣殿へ

白龍大神:「さて、続きといこうか。徳永のポイント集めが順調ではないということだったね?」

 

緒方:「はい、内面に問題があると思われます」

 

狛犬:「先ほどのように約束を破る癖もあるようですし、根本的見直しを考えなければいけませんね」

 

徳永:「みんな言いたい放題ですね…。

    だってなぁー!ご褒美ないとやる気出ないんですもん! 
    普段のポイント集めだって新型家電買うためにめっちゃ頑張ってるんですから!」

緒方:「お前…徳を積もうという話をしているのに…」

 

白龍大神:「まぁ、こういった欲深いところもある意味『素直』で『正直』ということなんだろうね。
      ふむ、ではこうしよう。

      徳を100ポイント増やすごとに私生活でいいことが起こるご褒美を与える。
      これでどうだい?」

 

徳永:「いいですねそれ!何が起こるか分からなくてワクワクします!!」

狛犬:「ご褒美を望み過ぎてしまうとポイントは減っていきますのでご注意くださいませ」

徳永:「はーい!よーし、頑張るぞー! 
    緒方課長、ユーモアの手伝いもするので引き続き協力よろしくお願いします!」

 

緒方:「動機は不純だがまぁいいだろう。

    徳永は誰かに頼ることはあっても頼られたことはないんじゃないか?」

徳永:「はい!」

 

緒方:「返事だけは一人前だな…。お前はまず頼られる側の人間になることだ」

 

徳永:「頼られる側?どうやって?」

 

狛犬:「どんなことでも困っている人を手助けしていくのがよいかと。
    資料を運ぶのを手伝ったり、忙しそうにしている人のお仕事を半分引き受けたり」

 

徳永:「なるほど…考えたこともなかった…」

 

白龍大神:「ハハハ、徳永はそれをしてもらう側だしね。

      ま、なんとかなりそうでよかったよ。
      くれぐれも約束を破ろうだなんて思わないようにね。
      次は外に出られないなんてものじゃないかもしれないよ…?」

 

徳永:「うっ…ご、ごめんなさい! 分かりました!」

 

白龍大神:「ハハハハハ! それじゃ、次のお供えも洋菓子でよろしくー!」(消える)

 


 帰り道

徳永:「人助け…人助け…。うーん難しい」

 

緒方:「そこまで悩むことでもないだろう」

 

徳永:「だって今までやったことがないんですもん」

 

緒方:「周りに感謝するんだな」

 

徳永:「してますよー!

    お願いする時だってめちゃくちゃ低姿勢で「なんでもしますー!」って言うし、
    ちゃんと謝るしお礼もしてるし。何も問題ないはずなのに…」

緒方:「助けてもらえるのが当たり前だと思ってないか?」

 

徳永:「えっ?」

 

緒方:「困ってたら絶対助けてもらえるわけではないんだぞ」

 

徳永:「……」

 

緒方:「では僕はここで。白龍大神様のお供えのリサーチに行かねばならないのでな」

 

徳永:「え、あぁ。次は何にするんですか?」

 

緒方:「シュークリームだ」

 

徳永:「また!?いやいや、1回ウケたからって同じものばっかりは飽きられますって!」

 

緒方:「別の店の別の味のものにすればいいじゃないか」

 

徳永:「いやそうじゃなくて。はぁ…私も一緒に行きますよ。

    たぶん私の方がその辺は詳しいでしょうし」

 

緒方:「それもそうか…ではよろしく頼む。ついでに面白いゲームについても教えてくれ」

 

徳永:「任せてください!課長が手に取らなさそうなやつを教えてあげますよ!」

 

 

 神社の中

狛犬:「白龍大神サマ、失礼致します」

 

白龍大神:「おや、珍しいね。どうしたんだい?」

 

狛犬:「いいのですか?ご褒美を与えるなど言ってしまって。

    徳永サマはああいった欲に特に弱いのですよ」

白龍大神:「あぁ、大丈夫大丈夫。だって人の子だよ?順調にはいかないものさ」

 

狛犬:「下手をすれば徳永サマの徳がすべてなくなってしまうかもしれないというのに…」

 

白龍大神「はっはっはっは!さすがサポート役だな。あの二人にそれは必要ないよ。
     まぁ見てなさい。きっと面白いことになるよ」


 とある日の神社にて

徳永:「課長ー!緒方課長!!聞いてください!」

緒方:「何なんだ、騒々しい。それよりこの間薦めてもらったこのゲームはなんだ!
    クエストとやらはやってもやっても終わらないじゃないか! 
    こいつらは自分でどうにかする気がないのか!?

    いつまで僕が化け物退治をしなければいけないんだ!」

 

徳永:「楽しんでもらえて何よりです!てか見てくださいよこれ! 
    私、毎朝ポイPAY使って朝ご飯買ってるんですけど、抽選当たったんですよ~!

    すごくないですか! 
    次の朝ご飯タダですよタダ!」

 

緒方:「なんだそんなこと…ん?徳が増えている…!」

 

徳永:「えっ」

 

狛犬:「緒方サマ、徳永サマおはようございます! 
    おや、徳永サマ昨日より200ポイントも増えているではないですか」

 

徳永:「えー!なんでー!?何か徳を積むことしたっけ…?」

 

緒方:「…そういえば昨日は白龍大神様にお供えする洋菓子選びと

    僕のためにゲームを一緒に見に行ってくれたな。
    なるほど、人のために動いた結果というわけだ」

徳永:「ええ!?あんなことでいいんですか!

    そっか、だからご褒美として抽選が当たったんだ!」

狛犬:「人助けとは本来そういうものですよ。

    意図せず誰かの助けや支えになることで徳が積まれるものなのです」

 

徳永:「これが人助け…!」

 

狛犬:「(ボソッと)本当に面白いことになってきた…」

 

徳永:「え?コマちゃんなんか言った?」

 

狛犬:「いえ何も」

 

緒方:「ではこれからも白龍大神様へのお供えは徳永を頼ることにしよう」

 

徳永:「任せてくださいよぉ!」

 


 1週間後

徳永:「いや~、自動販売機の当たりとか限定品のラスト1個をゲットしちゃうとか

    最近ツキまくってて人生楽しいな~!」

狛犬:「徳永サマ、鏡でございます」

 

徳永:「え、なに?(鏡を見て)げっ! 301ポイント!? 
    こないだ1200まで増えてたのになんでこんなに減ってんの!?」

緒方:「徳を積むそばから使ってどうする!!」

狛犬:「ご褒美を望み過ぎてしまうとポイントは減っていきますと言いましたのに…」

徳永:「えー…ちょっと調子に乗っただけなのに…」

狛犬:「このままご褒美を求めていくとまたすぐに元に戻っていきますよ」

緒方:「そろそろ学習しようと思わないのか」

 

徳永:「また怒られるし…。はぁ~徳を積むって本当に大変なんですねー」

 

緒方:「まったく…

    そういえばこの間おすすめしてもらった新しいゲームで分からないところがあるんだが」

 

徳永:「え、もうやってるんですか!課長って思ったよりフットワーク軽いですよね」

 

緒方:「ユーモアを手に入れるためだからな。
    スマホでできるのはありがたいんだが、

    このガチャというのはいつになったら欲しいものが出るんだ?」

 

徳永:「あー、ガチャはねぇ…。絶対出るとは限らないんですよ」

 

緒方:「課金をしても出ないのか?」

 

徳永:「出ないときは出ないですねー。沼ですよ沼!」

 

緒方:「沼…?新しいゲームか?」

 

徳永:「いやそうじゃなくて。早い話ハマっちゃうってことですよ!
    欲しいキャラクターが出るまでやめられない人がたまにいるんです」

 

緒方:「何!そんな危険なものを薦めたのか!」

 

徳永:「別に課金しなくても楽しめますから!」

 

緒方:「いやだ!僕はこの期間限定の遊び人みたいなキャラクターを使ってみたいんだ!
    ユーモアがあるに違いないからな!」

 

徳永:「どんだけハマってるんですか!
    とりあえずオススメしたキャラ使ってみてくださいよ!

    それからまた考えればいいじゃないですか」

 

緒方:「…課金する」

 

徳永:「えぇ!?いやいや課長どうしたんですか!なんでそんならしくないことを」

 

狛犬:「緒方サマ、顔色がよろしくないような…」

 

徳永:「課長…もしかして最近夜更かししてます?」

 

緒方:「う…ゲームが面白くてやめられないんだ…。
    徳永と狛犬が並んでいるのを見ていると、
    まず狛犬を攻撃して徳永は呪文封じの魔法で動けなくしてとか考えてしまう…」

 

徳永:「めちゃくちゃゲーム脳になってるじゃないですか!あれ…課長?」

 

緒方:「ぅ…」(倒れる)

 

徳永:「課長ぉー!!?」

 


 神社の奥の部屋で休む緒方を見守る徳永と狛犬

徳永:「どうしよう…今日が休みでよかったけど課長このままにしておけないし…」

 

狛犬:「緒方サマは徳永サマに教えてもらったゲームをとても楽しんでおられたのですね。
    徳永サマがいない時に文句をいいながらもずっとゲームのお話をされていました」

 

徳永:「えー 嫌々やってるかと思ってたのに。自分がハマってるやつ教えただけだし」

 

狛犬:「知らなかった世界を知ることができてありがたいともおっしゃっていましたよ。
    緒方サマの家庭環境もありますが、周りの方とくだけて話すことがなかなかできないようでして。
    徳永サマとはゲームをはじめ色んな話ができるから楽しいとも」

 

徳永:「…私、自分のことばっかり考えてたのに。誰かにちゃんと感謝されたの初めてかもしれない」

 

狛犬:「助け合いとは本来こういうものなのでしょうね」

 

徳永:「そっか…。私ちょっと出てくるね。コマちゃん、少しの間見ててもらっていいかな?」

 

狛犬:「はい、かしこまりました」

 

 数時間後

緒方:「ん…ボスは倒したのか…?」

徳永:「課長、一旦ゲームは忘れましょう。

    これ作ったので食べられそうだったら食べてください」

緒方:「この雑炊はどうしたんだ?」

 

徳永:「私が作りました。神社にも台所があってよかったですよ。
    ゲームが面白いのも時間忘れてハマっちゃうのも分かりますけど夜更かしはよくないですよ。
    課長が私に言ってたことじゃないですか。早寝早起きは大事だって」

 

緒方:「そ、そういえばそうだったな…。すまない。徳永の言う通りだ」

 

徳永:「それ食べてもうひと眠りしてください。神社の掃除は私がやっておきますので」

 

緒方:「お前一人でか…?」

 

徳永:「もう1か月もやってるんですからそれくらいできますよ。
    あとゲームなんですけど、今度は協力プレイできるやつにしましょう。
    一人でがっつりやるのも楽しいですけど、一緒にやるともっと楽しいやつがあるんで。
    ゲームの楽しさが分かったんだったら一緒にやる楽しさもきっと分かりますから!
    もちろん手加減しませんけどね!」

 

緒方:「分かった…ありがとう…。よろしく頼む」

 

狛犬:「徳永サマ、ポイントが…!」

 

徳永:「えっ?」

 

緒方:「増えている…!」

 

徳永:「えっ!?ちょ、鏡!コマちゃん鏡貸して!」

 

狛犬:「どうぞ。びっくりされますよ」

 

徳永:「え、ええぇ!!?きゅ、9,999ポイント!?
    すごい!あと1ポイントじゃないですか!!」

 

白龍大神:「おー、ようやくかぁ」

 

緒方:「白龍大神様!すみません、このような恰好で…

    あとお供えもまだ用意できていないのですが…」

白龍大神:「あー、大丈夫大丈夫。そのままでいなさい。

      それより、1万ポイントが目前のようだね」

 

徳永:「神様!私、ついにやりました!やりましたよ!!あと1ポイント!これでやっと…!!」

 

白龍大神:「うんうん。二人ともよく頑張ったねー」

 

緒方:「二人?」

 

白龍大神:「そうだよ。持ちつ持たれつ上手くやってきたみたいじゃないか。
      やっぱり私のお告げは間違いなかっただろう?」

緒方:「し、しかし私はまだユーモアを手に入れてはいませんが」

 

白龍大神:「緒方、ユーモアというものはね。すでにお前の中にあるものなんだよ。
      自分では気づいていないようだが、ちゃんと芽生えているよ?」

 

緒方:「そうなのですか…? 
    それはそうと白龍大神様を見ていると最強武器を授けてくれそうな

    隠れキャラクターに見えてきました。
    ギミックの凝った大剣を持っていそうな…」

白龍大神:「そう、そういうとこだよ」

 

狛犬:「立派なゲーム脳でございますね」

 

徳永:「アハハハハ!

    今の緒方課長だったらめちゃくちゃ話が合いそうだしトランプしても面白そうです!」

 

緒方:「自分ではよく分からないが、それならよかった」

 

徳永:「それで私はどうなるんですか?家電ポイント本当に戻ってくるんですか?」

 

白龍大神:「あぁ、もちろ…ん?おや?」

 

狛犬:「これはこれは…」

 

緒方:「あ…」

 

徳永:「え?あの、私の願いも叶うんです…よね?

    ん?アハハ、なんか変な空気だな~…。
    なんでみんな私の頭上見てるんですか…怖いじゃないですか~も~」

   (恐る恐る鏡を見る)

 間

徳永:「えええ!?何これ!!9,995!?
    ポイントが、ポイント減ってる!え、なんで!どうして!?何もしてないのに!」

緒方:「1ポイントずつゆっくりと減ってるな…これは一体…」

白龍大神:「はっはっはっは!やっぱりこうなったか」

 

徳永:「へ?」

 

緒方:「白龍大神様…?」

 

狛犬:「一生のうち徳ポイントは増減を繰り返しております。
    それでも大抵の方は1万ポイントを保っているのですが、
    徳永サマの場合は今までほぼまったくと言っていいほど徳を積んでこなかった。
    徳を貯めるということが馴染んでいないのです。
    つまりこの現象を止める為には、『徳を貯める』行為を習慣化することが適切かと」

 

白龍大神:「まぁ、今までの行いは大事だからねぇ」

 

徳永:「ちょ、ちょっと待ってください!え?じゃあ私の願いは?」

 

白龍大神:「次に持ち越し…かな?」

 

徳永:「そんな!いやいやでもまだ間に合いますよね?

    今すぐドーンと貯めればすぐに1万ポイントなんて」

緒方:「無理だろうな。現在進行形で減っている。今下手なことをすればガクンと減るぞ」

徳永:「そんな…そんな…!!なんでもしますから! 
    なんでもするからポイントを!あああ!また減ってる!
    誰か止めてえええ!うわあああああん!」

 

白龍大神:「はははは、相変わらずだねぇ。ま、とりあえず。これからも二人三脚で頑張ってね」

 

緒方:「はい?それは…まさか…」

 

白龍大神:「そうだよ。だって引継ぎしてないだろ?
      じゃあ緒方にもまだ代理やっててもらわないと困るよ。お供えも欲しいし」

 

緒方:「そ、それは…いやしかし」

 

狛犬:「緒方サマ、徳永サマ」

 

徳永:「え?」(同時に)

 

緒方:「え?」(同時に)

狛犬:「神様代理業務、これからもどうぞよろしくお願い致しますね」

 

 緒方、徳永、顔を見合わせる


緒方:「く…いいだろう。こうなったら責任を持って徳永の行く末を見守ってやろうじゃないか」

 

徳永:「なっ! 私だって課長がこれからどんなゲームオタクになるのか楽しみです!

    ゲームの沼という沼に引きずり込んでやりますからね!」

 

狛犬:「徳永サマ、徳が大幅に減りました…」

 

徳永:「ちょっ!またぁ!?」

 

白龍大神:「ふふふ、やっぱり人の子は面白いものだねぇ。
      生きるために必要なものひとつに『徳』を授けておいて本当によかったよ。
      しかしまぁ気づいていないようだけど、二人の願いは十分なほど叶ってるんだけどね。
      緒方はユーモア、徳永は家電なんて忘れるほどの充実した生活。
      ま、自分たちで気づくまではこうして見守っておこうかな」

 

 ― 終 ―

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